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タイトル: 男性・農地・健康/女性・森・病―セルマ・ラーゲルレーヴ『エルサレム』における「血と大地」
その他のタイトル: Mann-Gesundheit-Acker/Frau-Krankheit-Wald „Blut und Boden“ in Selma Lagerlöfs Jerusalem
著者: 中丸, 禎子
著者(別言語): NAKAMARU, Teiko
キーワード: ラーゲルレーヴ
スウェーデン文学
女性性
男性性
血と大地
ナチズム
発行日: 2009年3月24日
出版者: 東京大学大学院ドイツ語ドイツ文学研究会
掲載誌情報: 『詩・言語』. 第70号, 2009年3月24日, pp.27-46
抄録: ラーゲルレーヴは、スウェーデンや日本においては、民話の語りを髣髴とさせる内容・文体から、「お話おばさん」(se: sagotante; de: Märchentante)として親しまれ、母性的な平和主義者として知られる。これに対して、ドイツでは、民話・農民・郷土・大地などを繰り返しテーマ化したことから、「郷土芸術運動」および「血と大地思想」によって積極的に受容され、後のナチズム思想形成の一端を担った。本論文では、ラーゲルレーヴ『エルサレム』における他者支配のあり方を、男性性・女性性のあり方と重ね合わせて論じることで、ラーゲルレーヴとナチズムとの共通点・相違点を考察する。同作では、富農一家の跡取りである主人公のアイデンティティの完成が、「父から子への名前(血)の継承」という構造および「農耕」のモチーフと強く結びついている。「農民」という人物像は、一見、原初的で無垢な人間性を表すようで、その実、「大地」を「農地」化するという、文明の持つ「暴力」の根源形態を体現する。作品内でそれは、「男性性」による「女性性」の「接収」という性暴力として描かれる。導入部では、主人公の父である農夫が、子殺しをした妻を赦し、彼女を自身の良き妻・子どもたちの良き母とする。子殺しをする女性は、生と死の両方を司る「大地母神」を連想させるが、ここでは、農夫が「荒地」を人間に恵みをもたらす「農地」に変えることと、「大地母神」が馴化され、農夫に跡取りをもたらす良妻となることがパラレルである。本編においては、宗教運動に反対して故郷に留まる主人公イングマルが健康な男性として、エルサレムに移住する姉カーリンが病気の女性として、対比的に描かれている。スウェーデンにおいて、同作は、「倫理的英雄としての農民像」を打ち立てた作品とされる(エードストレーム、2002)。主人公のアイデンティティの完成は、彼が数々の倫理的行為により、「大地」を獲得し、名前(血統)を継承することで示される。これに対して、カーリンは、エルサレムに移住することでダーラナの「大地」を追われるのみならず、随所で、「麻痺した女性」として描かれる。19世紀・20世紀のヨーロッパ文学では、しばしば、女性の障碍(特に脚部麻痺)が、その家への隷従の比喩として描かれた(キース、2001)。ラーゲルレーヴは、自身(実際に左足に軽い障碍があった)のことも、繰り返し障碍者あるいは病人として描いている。スウェーデンにおいて、彼女は、フェミニストとして知られるが、作品には、脚部障碍によって女性の家への隷従が象徴され、更に、その「女性性」が男性によって「克服」されるという、二重の「女性支配」の構造を見てとることができる。 一方、作品における「障碍」や「死」は、現実世界の常識や人智を超えたものとしても表象される。作家の自伝『モールバッカ』には、歩けない「セルマ」が脚のない「楽園の鳥」を見るために立って歩く場面がある。ここでは、脚部障碍が、逆説的に、この世から楽園への越境能力として描かれている。カーリンを最終的には死に至らしめる「病」もまた、彼女が目指す「唯一真のキリスト教」に至る道であり得る。「女性」に付与された「病」や「死」をはじめとする「ネガティヴなもの」は、ラーゲルレーヴ作品に、現世的な価値や枠組みを超えていく可能性を与えてもいる。
URI: http://hdl.handle.net/2261/24316
ISSN: 09120041
出現カテゴリ:1143810 学術雑誌論文
019 文学

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