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タイトル: 青色光がイネおよびホウレンソウの光合成特性と成長に及ぼす影響
その他のタイトル: Effects of Blue Light on Photosynthetic Characteristics and Growth of Rice and Spinach
著者: 松田, 怜
著者(別言語): マツダ, リョウ
発行日: 2007年3月22日
抄録: 第1章 緒論// 青色光は,高等植物の光形態形成のみならず,乾物生産にも顕著な影響を及ぼす.しかし,異なる青色光強度下で成育した植物の乾物生産の差をもたらす要因は明確になっていない.人工光利用型の植物生産施設では,栽培光の青色光強度は光源に依存する.そのため,長期的な青色光照射が光合成などの乾物生産に関わる因子に及ぼす影響を明らかにすることは,限定されたエネルギ下における効率的な植物生産のための,適切な光源や照明法の選択・開発につながるものと考える.本論文ではまず,赤色光への低強度の青色光の付加が植物の乾物生産を促進するという現象に着目し,乾物生産促進に関わる要因を明らかにすることを目的とした.// 自然光においても,青色光強度は季節や時刻によって異なり,また植物群落の上部と下部との間でも著しい差がある.植物は青色光強度を感知することで,時空間的に変動する周囲の光環境を認識し,その光環境に順応している可能性がある.そこで次に,「青色光が光強度への順化応答に関与する」という仮説を検証し,青色光応答の生理的意義の一端を解明することを試みた.//第2章 赤色光への青色光の付加がイネの乾物生産に及ぼす影響// 植物工場や宇宙ステーションにおける作物栽培の光源として,赤色LEDの利用が検討されてきた.その中で,赤色LEDの照射光に若干の青色光 (総PPFDの1-10%程度) を付加すると,赤色LED単独照射に比べて個体乾物重が著しく増加することが見出された.短期的な青色光照射は気孔の開口を促進するが,長期的な青色光照射による乾物生産の促進は,気孔開口の促進に起因する光合成速度の増加のみで説明できるものではない.そこで,この乾物生産の促進をもたらす要因を,個葉の光合成特性レベルと個体成長レベルにおいて調べた.供試植物にはイネを用いた.LEDを栽培光源として,赤色光のみ (R区) または赤青混合光 (RB区,赤色光と青色光のPFD比は4:1) を照射して約1ヶ月間水耕栽培した.// まず個葉の光合成特性を調べた.供試品種にササニシキを用いて,総PPFD 240 μmol m(-2) s(-1)で育成した.最上位完全展開葉の光合成速度を白色光下で測定した.成育環境とほぼ同じPPFD (250 μmol m(-2) s(-1))下の純光合成速度はRB区の方がR区より高かった.また飽和光 (1,600 μmol m(-2) s(-1))下の純光合成速度(光合成能力) もRB区において高かった.これらのRB区における光合成速度の増加は,葉身の葉面積あたりN量の増加に伴っていた.葉身に含まれるNの約80%は葉緑体に局在し,その多くが光合成関連タンパク質などとして機能することが知られている.光合成関連タンパク質として,CO2固定の鍵酵素であるRubisco,光合成電子伝達の律速因子の1つであるCyt f,集光反応を担うChlおよびLHCIIの量を調べたところ,それらはいずれも葉身N量の増加に伴ってRB区で増加していた.このような葉身N量の増加に伴う光合成関連タンパク質量の増加が,RB区の弱光下および飽和光下における光合成速度の増加をもたらしたものと考えられる.また実際の成育環境の光質下における光合成速度もRB区の方が高かったであろうと推察される.// 個体の乾物生産は,個葉の光合成速度に加えて,個体レベルでどれだけ葉面を広く展開するかという点にも大きく影響を受ける.また,イネは光合成器官である葉身へのN投資率を変えることにより,成育環境下における個体の光合成効率を調節すると報告されている.そこで次に個体の成長解析と葉身へのN投資率を調べた.供試品種にササニシキと日本晴を用いて,総PPFD 380μmol m(-2) s(-1)で育成した.播種後56日目の個体乾物重と総葉面積は,いずれの品種でもR区に比べてRB区で増加した.播種後35日目と56日目の測定値を用いて成長解析を行ったところ,RGRは両品種ともにRB区で増加した.このRGRの増加は,日本晴では有意差はないものの,NARの増加が寄与していた.またRB区では全葉身で平均した葉面積あたりN量が多く,最上位完全展開葉を含む上位3葉の葉位別の葉身N量,Rubisco量,Chl量は,いずれの葉位でもRB区で増加していた.このことから,RB区における葉身の光合成速度の増加は個体全体で起こったものと考えられる.ササニシキではRB区でのLARの増加もRGRの向上に寄与していたが,日本晴ではそのような応答は認められなかった.播種後56日目の個体あたりのN集積量は両品種ともにRB区の方がR区より多く,そのうち葉身に投資されるNの割合もRB区の方が高かった.このような葉身へのN投資率の増加も乾物生産向上に貢献したものといえる.// 以上より,赤色光に青色光を付加して長期間照射したイネでは,赤色光単独照射に比べて,葉身N量の増加に伴って個葉の光合成速度が増加することがわかった.また,青色光の付加による乾物生産促進にはNARの増加が大きく貢献していた.ササニシキでは葉面の拡大も乾物生産促進に寄与していた.個葉光合成と個体成長の結果を併せて考えると,青色光の付加による乾物生産促進の要因がNARであったことから,個葉の光合成速度の増加が乾物生産促進に貢献したといえる.//第3章 ホウレンソウの光順化応答における青色光の作用// 青色光照射下で成育した植物は,赤色光照射に比べてChl a/b比が高く,葉が厚いなど,強光に順化した植物で観察されるいくつかの特徴を示すことが知られている.このことから,青色光が強光や弱光に対する光順化応答を誘導するという仮説が提唱されている.ここで光順化応答とは,成育環境の光強度下において光エネルギを効率よく光合成や成長に利用するために植物が示す応答のことを指す.既往の研究では,植物が照射光に含まれる青色光の有無を感知するのか,あるいは青色光の強度を感知するのかは不明であった.そこで,低青色光強度下で成育した植物の特徴と弱光に順化した植物の特徴との類似性を評価基準として,光順化における青色光の作用を検討した.解析は,個葉レベルの応答と個体レベルの応答について行った.供試植物には予備実験で光順化応答が明瞭に観察されたホウレンソウ (品種:メガトン) を用いた.青色および赤色LEDを用いて,青色光/赤色光PFDを0/300,30/270,100/200,150/150 μmol m(-2) s(-1)とした照射下で約1ヶ月間水耕栽培した.// まず個葉レベルの光順化応答を調べた.一般に弱光順化葉では,強光順化葉に比べて,飽和光下での光合成速度が低く葉面積あたりN量が少ない.これはおもに葉が薄いことに起因する.光質処理したホウレンソウ葉では,成育時の青色光強度の低下に伴う光合成速度と葉面積あたりN量の減少が認められた.しかし,葉の厚さの指標である葉面積あたり乾物重には青色光強度の影響はほとんど認められなかった.また一般に弱光順化葉では,相対的に集光反応に関わる因子へのN分配の割合が高く,光合成電子伝達に関わる因子へのN分配の割合が低いことも認められる.そこで光質処理区間で,集光因子と電子伝達系因子間のN分配の指標としてCyt f/LHCII比を比較した.Cyt f/LHCII比は青色光強度が100 μmol m(-2) s(-1)より低くなるにつれて次第に低下し,弱光順化葉のCyt f/LHCII比に近づく傾向が認められた.// 次に個体レベルの光順化応答を調べた.一般に弱光植物においては,強光植物に比べて,LARの増加,葉へのN投資率の増加,葉の炭水化物プールサイズの減少といった特徴が観察される.しかし,LARと葉へのN投資率は成育時の青色光強度に影響を受けなかった.さらに,葉の乾物重あたり非体構成炭水化物量は,青色光強度の低下とともに増加する傾向にあった.このように,個体レベルの光順化応答においては,低青色光強度下で成育した植物と弱光植物との間に類似性は認められなかった.// 以上より,ホウレンソウにおいて,低強度の青色光が光順化の際の集光因子と電子伝達系因子間のN分配の調節に関与する可能性が示唆された.他方,葉の厚さや個体レベルの性質の光順化に関しては,本研究で調べた限り,青色光の関与を示すデータは得られなかった.//第4章 結語// 赤色光への低強度の青色光の付加が光合成特性や形態,個体のN集積量などを変化させ,それらが個体の乾物生産促進に関わっていることをイネを用いて実験的に示し,植物生産のための人工光源として赤色LEDに青色光光源を組み合わせることの有効性に生理学的な根拠を与えた.またホウレンソウにおいて,低強度の範囲の青色光が光順化の際の葉緑体タンパク質量の調節に関わっている可能性を指摘し,光順化における青色光の作用の全容解明に資する知見を提供した.以上のように,本論文により,人工環境下における植物生産の効率向上および自然環境下における植物の環境応答の理解の両者に寄与する,光合成および乾物生産の青色光応答に関する基礎的知見が得られた.
内容記述: 報告番号: 甲22437 ; 学位授与年月日: 2007-03-22 ; 学位の種別: 課程博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 博農第3161号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科生物・環境工学専攻
URI: http://hdl.handle.net/2261/51152
出現カテゴリ:021 博士論文
1161420 博士論文(生物・環境工学専攻)

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