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タイトル: 作物遺伝資源の管理と参加型開発 : 農業における生物多様性問題と技術協カ
著者: 西川, 芳昭
著者(別言語): ニシカワ, ヨシアキ
発行日: 2003年3月3日
抄録: 作物遺伝資源は農業における生物多様性を構成する重要な要素であり、人類の歴史とともに利用されてきたが、近年開発の進行に伴い消失の危機にさらされている。1992年に合意された生物多様性条約では、利用することを通じて生物多様性を保全し、その利益を衡平に配分するという概念が取り入れられた。2001年に合意されたFAOによる食糧農業のための植物遺伝資源条約においても、世界中で相互依存性の高い作物遺伝資源の利用促進と利益配分が重要な目的とされている。作物遺伝資源の場合、産業としての農業による生産性の向上と生産の増大を追求する利用と、途上国の大多数の農民や先進国の条件不利地におけるような生業的な農業による利用とに大きく分けられる。作物遺伝資源を利用した農業・農村開発を行うためには、持続可能な開発の枠組みの中で保全と利用が結合した管理を地域内外のステークホールダーが参画できる具体的なしくみを創りだす事が重要である。// わが国の実施する政府開発援助は、長年にわたって世界一の規模で行われ、作物遺伝資源に関する協力は、農業生産に関する開発・研究協力の主要テーマの一つとなっている。国際的な食糧・農業協力における理念は、従来は国全体の経済成長の成果が食糧・栄養面を含めた住民の生活水準の向上をもたらすという見方であったが、昨今は「人間中心の開発」を「住民参加型」によって進めることによって食糧安全保障の達成を図っていくことが重要であり、そのために各国が協調すべきであるという考え方に変わってきている。// 本研究では、このような背景を踏まえて、作物遺伝資源を中心とした農業における生物多様性の管理を、参加型開発と結びつけ、開発途上国の社会開発、特に農民の人間開発を実現させる国際技術協力の新しい方策を提案した。特に、地域で実践されている作物遺伝資源管理およびそれらに対する外部からの介入としての国際技術協力を、作物遺伝資源の保全・利用・利益配分に関するグローバルシステムの中で、非金銭的利益配分として位置づける可能性を仮説として提案し、事例分析を通して実証した。// 参加型開発は、ともすればもっぱら事業実施の効率化のために利用されたり、理念として述べられたりするだけで、参加する各アクターに対する具体的な開発の効果が評価されない場合も多い。作物遺伝資源管理における参加型開発は、具体的な資源に対する農民やその他のステークホールダーの関わり方が変化することで質的な評価が可能である。本論文では、作物遺伝資源の管理に関して多様な組織の参加の形態について、「農民やその他のステークホールダーがどのように多様性の管理に参画できるか」を評価の基準にした。フィールド調査による質的情報の収集と分析を中心に、それぞれのしくみが具体的にどのように参加を促しているかを明らかにした。// まず、各国の生物多様性戦略の中で科学者が作物遺伝資源をどのように利用しようとしているかが、実際の事業実施のしくみに大きな影響を与えていることが示された。具体的には、研究所中心の商業的利用、国連資金の導入による生態系保全、NGOによる農民参加による地域での利用等の事例が明らかになった。// 第二に、農民による利用を通じた参加型により作物遺伝資源管理と農村開発を促進する多様な介在組織の存在が明らかになった。// アイルランドのシードセイバーズは、会員組織の市民団体として、地域内の失われつつある遺伝資源の収集保全を行うと同時に、すでに地域から失われた遺伝資源をジーンバンクから再導入し、増殖と配布を行っている。参加するメンバーの自発性および自律性、専門技術および資金調達の多様性、教育・啓発との統合、政府事業との多様な関係がNPOとしての介在組織の特色として明らかにされた。// 広島県農業ジーンバンクの例からは、近代的育種を念頭においたインフラ施設が、地域農民と直接連携する機会が与えられたときに、地方品種の地域内における新しい利活用に貢献できることが明らかにされた。ジーンバンクの施設が存在し、農民とジーンバンクを介在する普及員OBや農協が参加することによって参加型遺伝資源管理が実現している。農民が自家採種する能力を復活したことも特筆すべきであろう。その際に、農業以外の栄養士会のようなアクターまでを参加に巻き込み連携を行った工夫は特に評価できる。// 第三に、植物遺伝資源に関する国際技術協力の主要な実施機関であるドイツ技術協力公社(GTZ)と我が国の国際協力事業団(JICA)が実施する協力の内容を比較分析し、特にGTZが参加型開発の手法を具体的に取り入れていることを示した。// ドイツは、従来のジーンバンクのインフラ整備中心の協力から、多様なステークホールダーのインセンティブを利用した参加型の農業農村開発へと、その戦略を転換させている。このステークホールダーは農民と研究者のほか、政治家や消費者までを含むすべての遺伝資源に関わる者となっている。さらに、従来の多投入のいわゆる近代農業に対する代替的農業開発の手段としての生物多様性利用も積極的に行われつつある。// GTZの実施体制として二つの点が注目に値する。第一は、セクター別の専門部署において遺伝資源の専門担当者を置いており、彼女たちが地域別部署の実施する個別農業・農村開発プロジェクトの種子・遺伝資源関係の情報を一括整理し、また参加型開発や遺伝資源管理に関する国際的な動向や個別プロジェクトから蓄積されたノウハウを個別プロジェクトに還元している。第二は、プロジェクトの運営にあたっては生物科学の研究者・技術者がイニシアティブを取るのではなく、開発の専門家がファシリテーターとして採用されている。開発専門家が活躍する場の少ない日本と比較して、技術協力の考え方に対する日独の根本的な違いがここに現れている。// 参加型開発を取り入れることによって、従来は科学者が中心になって実施してきた遺伝資源管理事業に、農民が単なる受益者としてではなく、協働の参画者として加わるようになった。また、科学技術の卓越性が無条件に受け入れられる前提から、農民の知恵や価値の把握の重要性が外部からの介入者にも理解されるようになった。これは開発におけるパラダイムの転換である。// JICAの技術協力も先進国である我が国から開発途上国への単なる科学技術の移転を行う協力から、途上国の人材や組織・機関の能力向上を協力目標に掲げる協カへと変化している。しかしながら、ドイツが実施しているような、関係する利害関係者(ステークホールダー)が、自発的に開発に参与する力をつけさせる協力は、我が国の作物遺伝資源に関する技術協力にはまだ見られない。// これは、JICAの協力が、相手国政府機関との合意文書に基づき、公的機関のカウンターパートに技術移転をするというシステムに起因する限界かも知れないが、一方では農村開発調査では参加型開発の考え方が浸透しつつある。さらに、地方自治体やNGOとの連携も始まっている。JICAが持ちつつあるこのようなノウハウを作物遺伝資源管理という研究色が強いと認識されている分野にどう応用するかが問われており、GTZから学ぶことが多い。// 最後に、これらの分析に基づいて現在構築されつつあるグローバルシステムの中で、開発途上地域や条件不利地における農業・農村開発において農民のエンパワーメントを通じた作物遺伝資源の利用による非金銭的利益配分を実現する技術協力のあり方を提言した。// グローバルシステムを実現するには、オプション価値を重視するような従来のジーンバンクと近代育種による金銭的利益配分と、農民が自らの意思で必要な作物の遺伝資源の利用ができるようなローカルなプロジェクトをファシリテートする非金銭的利益配分である技術協力との両方が必要である。そして、これらを並存させるためにも橋渡しを行う組織制度の整備が各国内部でもまた国際協力の場でも求められる。ドイツが実施している技術協力のあり方はこのような取り組みへの出発点と考えられる。// 本研究は一貫して質的情報の分析に基づいて新しい組織制度のあり方と、その確立のための技術協力の手法を参加型開発との関連で議論した。実際のプロジェクトの実施においては、OECD等による評価基準を満たす必要があり、財務経済的な持続可能性を担保するためにはさらなる数値的な分析も求められる。また、参加または合意にかかるコストは決して小さいとは言えず、参加による便益に関しての数値的な分析も必要である。しかし、本論における事例分析では、社会開発を通じた個人やコミュニティのエンパワーメントを希求し、農業・農村開発や住民の福祉の向上を目指すときには、その結果を地域ごとに展開されるプロジェクトにおける対応の具体的な形として示すことが重要であることを明らかにしている。// 今後開発途上国を始め、先進国を含めた条件不利地等において参加型の作物遺伝資源管理が展開されるには、本論文で明らかにした多様な価値把握とそれらを利用した多様な組織制度のしくみ、ステークホールダーの参加を促す方法等を、研究者・援助実施者等外部から介入する関係者が明確に理解したうえで事業を実施することが必要である。
内容記述: 報告番号: 乙15578 ; 学位授与年月日: 2003-03-03 ; 学位の種別: 論文博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 第15578号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科
修正を加えて出版. 西川芳昭著『作物遺伝資源の農民参加型管理 : 経済開発から人間開発へ』2004年,農山漁村文化協会
URI: http://hdl.handle.net/2261/51212
出現カテゴリ:021 博士論文
農学

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