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タイトル: コムギの一穂粒数の決定に関する発育形態学的研究
著者: 豊田, 正範
著者(別言語): トヨタ, マサノリ
発行日: 2004年7月5日
抄録: 日本では現在、コムギの自給率の向上が求められており、西日本のコムギ産地では、栽培面積の拡大と共に、収量の増加が大きな課題となっている。しかし、これらの地域は播種適期の11月頃に降雨に見舞われることが多く、播種が遅れると収量が変動するため、コムギの安定供給という面で大きな障害となっている。また、これらの地域では、水稲作との管理作業の競合や、収穫期における梅雨を回避するために早生化が重要な育種目標になっているが、生育期間の短縮による収量の低下も懸念されている。これらの課題を解決していくためは、収量の形成過程を収量構成要素に着目して詳しく理解することが必要であり、特に国産コムギについての研究が相対的に立ち後れている一穂粒数の決定過程について検討する必要がある。一穂粒数を検討するためには一穂全体における小花の数の推移を把握することが前提となるため、発育形態学的な視点から現状における問題点をより深く理解するとともに、これを栽培的・育種的に改善していくための基礎的知見を得ることを目的として、小花数の定量的な検討を行った。//1. 走査型電子顕微鏡による幼穂形成過程の観察//一穂粒数の決定過程を発育形態学的に解析するためには、一穂全体におけるすべての小穂の形成、およびすべての小花の分化と退化過程に関する詳細な観察が前提となる。コムギの穂の形態やその形成過程については古くから研究されており、幼穂形成過程の概要については既に明らかになっている。しかし、本研究において小穂や小花の分化数を定量的に取り扱うためにはそれぞれの分化期間を特定する必要があるが、従来の研究ではその点が厳密ではなかった。そこで、本研究で扱う西日本で栽培されているコムギ主要品種の幼穂形成過程を、走査型電子顕微鏡を用いて詳細に観察した。その観察結果を基に、これまで曖昧であった葉と小穂の分化期間の境界について、「穂の最基部の小穂と対をなす苞原基が分化した時点を小穂分化開始期」と定義した。また、走査型電子顕微鏡と実体顕微鏡による観察を組み合わせて行なうことで、すべての小花の分化を追跡することができるようになり、一穂小花数の検討ができるようになった。ただし、形態観察のみから小穂の分化開始期や小花の分化終了期を厳密に特定することが困難であることも明らかとなった。//2. 小穂数および小花数の決定過程のモデリング//コムギの幼穂においては、穂軸に沿って向頂的に小穂が分化する過程と、それぞれの小穂においてやはり向頂的に小花が分化する過程とが、部分的に重なりながら進行する。その場合、小穂の分化は頂端のものが分化した時点で数が決まる有限型であるが、小花の場合は無限型の分化であるとともに、分化した小花の一部が退化する点で小穂の形成と異なっている。そこで、両者をそれぞれ定量的に捉えるために、幼穂の形成過程に関する詳細な形態観察を踏まえて、小穂数および小花数の決定過程のモデリングを試みた。まず、小穂についてみると、栄養相における葉の分化の延長として小穂の形成に先立つ苞の分化があるが、外部形態の観察だけで葉と苞のいずれが分化したかを判別することは困難である。そこで、有効積算温度に対する葉、苞および小穂の累積数の推移を検討したところ、葉の分化期間、小穂の分化期間、および小穂の分化終了以降の3つの期間に、それぞれ勾配の異なる連続した3本の直線をあてはめる線形スプラインモデルを適用することが有効であった。この結果を利用して、葉数および小穂数の増加過程をそれぞれの分化期間と分化速度という2つの要因に還元して考察することが可能となった。一方、幼穂の形成過程における小花数の推移についてはこれまでほとんど報告がなく、不明な点が多かった。本研究において、走査型電子顕微鏡による詳細な観察に基づいて定量化を試みたところ、有効積算温度に対する一穂の小花数の推移は左右非対称のロジスティック曲線状の推移を示したそこで、両者の関係にGompertzの生長モデルを適用したところ、うまくあてはまり、小花数の決定過程も分化期間と分化速度に還元して検討できることが明らかとなった。ただし、粒数の決定過程における小花の退化については、さらに客観的に判断するための基準の確立が必要である。//3. 一穂粒数の変異に関わる要因の解析//西日本の暖地・温暖地で栽培されているコムギ品種イワイノダイチ、さぬきの夢2000、チクゴイズミを、播種期を変えて(早播き、標準播き、遅播き)栽培したところ、小穂数および一穂粒数に変異が認められることが確認できた。その変異に関わる要因について分化速度と分化期間に着目して検討したところ、いずれの要因も深く関係しているが、とくに分化期間が大きく影響していることが確認されるとともに、分化速度と分化期間との間に補償的な関係が認められることが明らかとなった。小穂や小花の分化速度は主として温度、分化期間は主として日長に大きく影響されることが推察されたが、両者が相互に関係するため、各環境要因の影響には必ずしも単純な一定の傾向は認められなかった。また、「一穂粒数=分化小花数-退化小花数」と考えて検討を進めた結果、遅播きしたものほど分化小花数の最大値は少ないが小花の生存率が高まる傾向が認められた。なお、最終的に稔実する粒数が分化小花数の最大値の半分以下である場合が多いことを考えると、分化小花数を増やすこととともに、あるいはそれ以上に退化小花数をへらすことで最終的な稔実粒数の割合を上げる必要があると考えられた。この点に関しては、穂重と稈重の間における乾物の分配が退化小花数の多少に関係していることが示唆された。//4. 小穂の位置別着粒数の変異に関わる要因の解析//以上は、一穂粒数を全体として取り扱うか、一穂粒数を小穂数と小穂当たりの平均粒数との積と考えて検討を進めてきた。しかし、穂の構造の実態に即して小花の分化速度や分化期間についてさらに詳細に検討するためには、穂軸に沿った小穂の位置に着目して、小穂当たり粒数の変異について検討する必要がある。そこで、まず西日本で栽培されているコムギ4品種の小穂当たり粒数の分布を確認した上で、小穂位置による小穂当たり粒数の変異について、小花の分化開始時期と分化速度に着目して検討した。小穂当たり粒数はいずれの品種においても第7小穂付近で最も多く、そこから頂端側および基部側に向かって次第に減少していた。ただし、一穂粒数の多少を小穂の位置別についてみると、かならずしもすべての小穂において同様に粒数が増減しているわけではなく、一穂粒数が多い品種ほど、まず基部側、続いて頂端側の小穂当たり粒数が多くなっていることが分かった。このような小穂の位置別の粒数について検討した結果、小花の生存や退化には小花の分化開始期だけではなく、分化後の小花の発育速度も密接に関係していることが示唆された。しかし、小穂あたり粒数の変異は、これまで小花の分化速度や分化期間の視点から検討されていない。そこで、有効積算温度に対する小穂別の小花数の推移をみたところ、すべての小穂において両者の間に有意な正の相関関係が認められ、直線回帰式を利用して小穂位置別の小花分化開始期、小花分化速度、および生存する最上位の小花が分化する時期(最終生存小花分化期)を推定することが可能となった。小穂の位置別の小花分化開始期は、幼穂中央付近の小穂で最も早く、そこから穂の先端側および基部側に向かって次第に遅くなった。小穂の位置別の小花分化速度は穂の基部から先端側に向かって次第に遅くなる傾向に、また、最終生存小花分化期は穂の先端側に向かうほど遅れる傾向にあったが、いずれも小花の分化開始期ほど変異が大きくなかった。また、分化した小花が生存するか退化するかは、比較的短い期間内にすべての小穂においてほぼ一斉に決定するため、概して小穂分化開始期が早い小穂ほど小穂当たり粒数が多くなることが明らかとなった。//以上、本研究においては、コムギの幼穂形成に関する詳細な形態観察とそれに基づくモデリングによって、収量構成要素の一つである一穂粒数を定量的に検討することができるようになった。その結果、一穂粒数が小穂および小花の分化速度と分化期間の相互関係を含んだ大小によって規定されることが明らかとなった。最終的に稔実した粒数を問題とするには小花の退化過程についてさらに理解を深める必要があるが、本研究の結果、一穂粒数を栽培的・育種的に増加させるために役立つ基礎的な知見が得られた。
内容記述: 報告番号: 乙16048 ; 学位授与年月日: 2004-07-05 ; 学位の種別: 論文博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 第16048号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科
URI: http://hdl.handle.net/2261/51220
出現カテゴリ:021 博士論文
農学

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