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タイトル: 火災加熱を受ける鋼構造部材の変形性状に関する実験的研究
その他のタイトル: Experimental Study on Load Bearing and Deformation Capacity of Steel Structural Members exposed to Fire
著者: 平島, 岳夫
著者(別言語): Hirashima, Takeo
発行日: 2003年2月13日
抄録: 1.研究の背景//建物に耐火性を持たせる基本方策は、防火区画により火を封じ込めて、火災の延焼拡大を防止することである。防火区画により火災の延焼拡大を防止できれば、避難と消防活動が安全に行われ、人命と財産が守られる。耐火設計の出発点は、防火区画による火災の延焼拡大防止にあると考える。本研究は、防火区画内に火災が封じ込まれることを前提とする区画火災を対象とした、区画部材を支える構造部材の耐火性に関する研究である。一般的に採用されている耐火設計方法においては、標準耐火試験により得られた構造部材の耐火時間が建築法規で定められた要求耐火時間を上回ることを確認することにより、建物の耐火性を確保している。一方で、実際の建物条件に応じた火災挙動を予測して構造部材の耐火性を確認する、数値解析に基づく耐火設計方法が1989年に提案されている。数値解析に基づく耐火設計方法の手順は、まず安全係数を設定し、数値解析により火災性状・部材温度・力学性状の予測を行い、最後に、耐火性能評価基準に基づいて耐火性を決定する方法である。本研究は、数値解析に基づく耐火設計方法に適用することを前提とした、力学性状予測と耐火性能評価基準に関する実験的研究である。鋼構造部材の耐火性を確保するために、一般には、鋼構造部材に耐火被覆を施して、鋼材温度を抑制する方法が採用されている。従来の標準耐火試験においては、耐火被覆が施された鋼構造部材の鋼材温度が平均350℃以下かつ最高450℃以下に収まるか否かによって、鋼構造部材の耐火時間を決定していた。一方、数値解析に基づく耐火設計方法は、1990年頃より活用され始めた。その多くは、鋼材温度600℃において長期許容応力度以上の降伏強度を保証する、耐火鋼に適用したものであった。このような状況下において、鋼構造部材が負担している設計荷重が小さければ、一般鋼においても鋼材温度600℃位までの耐火設計が可能ではないかという思いが本研究の発端であった。1992年には、高層鉄骨架構48棟における熱応力変形解析の結果に基づいて、耐震設計された鋼構造骨組は600℃位までの耐火性を有する可能性が示された。しかし、同じ報告において、火災加熱を受ける鋼柱の柱頭と柱脚および鋼梁の端部と中央部に大きな曲率が生じて局部座屈が発生することが指摘され、高温時における鋼柱と鋼梁の荷重支持能力を実験で確認する必要があるとの課題が挙げられた。本研究における実験は、この課題に基づいて計画され、1997年に実施された。鋼材温度400℃~600℃における一般鋼の実験資料を蓄積したものである。//2.研究の目的//鋼構造建物において火災が生じると、加熱を受ける鋼構造部材には、鋼材の熱膨張と熱劣化さらには周辺部材からの拘束により、極めて大きな熱変形が生じる。火災加熱を受ける鋼構造骨組の一般的な挙動を図1に示す。外柱を含む区画に火災が生じると、加熱梁が伸びだすことにより、外柱は外側へと押し出される。これより、曲げ変形の集中する外柱の柱頭・柱脚には、局部座屈が生じる可能性がある。加熱梁が外側へと伸びだすことができない場合は、梁自身がたわみ込みんで、梁の両端部と中央部に曲げ変形が集中して局部座屈が生じる可能性がある。高層鉄骨架構48棟における600℃までの熱応力変形解析を行なった報告によると、外柱柱頭における水平変形量は、15棟の例において階高の1/50位にまで達しており、半数以上の例において階高の1/120を大きく上回っていた。また同じ報告において、梁中央部におけるたわみ量は、5棟の例において梁スパンの1/30位にまで達しており、ほとんどの例において梁スパンの1/300を大きく上回っていた。このように火災加熱を受ける鋼構造骨組には、地震時をはるかに上回る変形が生じる。よって、鋼構造部材に発生する局部座屈を避けがたい。これより鋼構造の耐火設計においては、板要素の幅厚比を制限して局部座屈を防止する設計とは異なり、局部座屈後における鋼構造部材の変形性状を考慮した設計を行なうこととなる。本研究の目的は、従来不足していた一般鋼部材の変形性状を600℃までの部材実験により蓄積し、局部座屈後における鋼構造部材の残存耐力と荷重支持能力を明らかにすることである。この目的を達成するために、以下に示す4種類の実験を行なった。//①溶接構造用圧延鋼材(SM490A)の高温引張試験//火災加熱を受ける鋼構造部材の変形性状を把握する上で、鋼材の高温時引張特性は最も基本的な資料である。高温部材実験に用いた溶接構造用圧延鋼材について、常温~800℃までの高温引張試験を行なった。//②高温時におけるH形断面・箱形断面部材の短柱圧縮実験//常温・400℃・500℃・600℃と鋼材温度を一定に保った状態において、幅厚比b/t=7.5と幅厚比b/t=10のH形断面部材および幅厚比d/t=25と幅厚比d/t=30の箱形断面部材を用いた短柱圧縮実験を行った。短柱圧縮実験の目的は、鋼構造部材の局部座屈後における残存圧縮耐力を定量的に把握し、局部座屈を考慮した圧縮域における応力-ひずみ曲線を得ることである。//③高温時におけるH形断面部材の純曲げ実験//常温・400℃・500℃・600℃と鋼材温度を一定に保った状態において、幅厚比b/t=7.5と幅厚比b/t=10のH形断面部材を用いた純曲げ実験を行った。図1に示す鋼構造骨組の火災時挙動において、加熱梁が外側へと伸びだすことができない場合は、梁自身が大きくたわみ込む。このとき、梁の両端部と中央部に曲げ変形が集中するので、局部座屈が生じる可能性がある。よって、火災加熱を受ける鋼梁の曲げ耐力を決める際には、局部座屈を考慮する必要がある。純曲げ実験の目的は、鋼構造部材の局部座屈に伴う曲げ耐力の低下を定量的に把握することである。//④高温時におけるH形断面・箱形断面部材の曲げ圧縮実験//常温・400℃・500℃・550℃・600℃と鋼材温度を一定に保った状態において、幅厚比b/t=7.5と幅厚比b/t=10のH形断面部材および幅厚比d/t=25と幅厚比d/t=30の箱形断面部材を用いた曲げ圧縮実験を行った。図1に示したように、外柱を含む区画に火災が生じると、加熱梁が伸びだすことにより、外柱は外側へと押し出される。このとき、曲げ変形の集中する外柱の柱頭・柱脚には、局部座屈が生じる可能性がある。このような状況下においては、局部座屈の発生により、外柱の軸方向耐力が急激に低下し、外柱が存在軸力を支えられなくなることが最も懸念される。曲げ圧縮実験の目的は、鋼構造部材の局部座屈後における曲げ圧縮変形性状を明らかにするとともに、加熱梁の伸びだしを受ける鋼柱の荷重支持能力を確認することである。//3.研究の成果//3.1溶接構造用圧延鋼材の高温引張試験//溶接構造用圧延鋼材(SM490A)について5種類,裏当て金について1種類における高温引張試験結果より、高温時の応力-ひずみ曲線をはじめ、弾性係数・0.2%オフセット強度・引張強度・伸びなどの高温時引張特性に関する資料が蓄積された。//3.2高温時におけるH形断面・箱形断面部材の短柱圧縮実験//一般鋼を用いたH形断面・箱形断面部材の短柱圧縮実験により、局部座屈後の残存圧縮耐力を得た。圧縮ひずみ15%位における残存圧縮耐力は、H形断面部材と箱形断面部材ともに、500℃においては基準強度の0.4倍程度であり、600℃においては基準強度の0.2倍程度であった。箱形断面・円形断面部材(閉鎖断面部材)については、鈴木らの研究によって、局部座屈を考慮した圧縮域における応カ-ひずみ曲線式が提案されていた。本研究では、鈴木らの提案式における考え方を踏襲して、H形断面部材の局部座屈後における応カ-ひずみ曲線式を実験的に導いた。下式に示すH形断面部材の局部座屈後における応力・ひずみ曲線式おいて、1.2と1.0の定数が本実験により導かれた値である。//σ(ε0)=(σ0(ε0))/(b/t)(√1.2/ε0+1.0)//短柱圧縮実験の結果を用いることにより、数値解析に基づく耐火設計の力学性状予測において、一般鋼における局部座屈後の耐力低下を考慮することが可能となった。//3.3高温時におけるH形断面部材の純曲げ実験//火災加熱を受ける鋼梁には大きなたわみが生じるが、鋼梁が支える区画部材に隙間が生じて火災が延焼拡大することは許されないので、鋼梁のたわみ量を制限する必要がある。区画部材を支える構造部材における熱変形量の制限値は、区画部材の延焼拡大防止能力を損なわないことを前提として定められるべきであるが、我が国においては規定がない。よって、本研究においては、ヨーロッパ鋼構造協会の耐火設計において推奨されている梁のたわみ許容値を目安とした。純曲げ実験では、梁のたわみ許容値を超える変形をH形断面部材に与えて、大変形時における一般鋼の曲げ耐力を得た。その結果、幅厚比b/t=10以下のH形断面部材においては、梁のたわみ許容値に相当する大変形が生じても、局部座屈に伴う曲げ耐力の低下が見られなかった。これより、数値解析に基づく耐火設計の力学性状予測において、鋼梁に生じるたわみが梁のたわみ許容値を超えないことを確認すれば、局部座屈の影響を考慮しなくてもよいことが示された。また、塑性ヒンジ部分における曲げ耐力が曲率の増大にかかわらず全塑性モーメントを維持すると仮定した、塑性設計を適用できることが示された。//3.4高温時におけるH形断面・箱形断面部材の曲げ圧縮実験//火災加熱を受ける鋼構造骨組において、外柱は加熱梁の伸びだしを受ける。しかし、部材単体を対象とした柱の標準耐火試験は中心圧縮載荷であり、加熱梁の伸びだしは考慮されない。耐火鋼については加熱梁の伸びだしを考慮した柱の荷重支持能力に関する実験的研究が報告されているが、一般鋼については皆無である。曲げ圧縮実験では、加熱梁の伸びだしを受ける一般鋼柱における荷重支持能力を確認した。ヨーロッパ鋼構造協会の耐火設計において推奨されている柱の水平変形許容値は、階高の1/30である。純曲げ実験の項で述べたが、構造部材における変形量の許容値は、区画部材の延焼拡大防止能力を維持するための目安である。曲げ圧縮実験では、柱の水平変形許容値(階高の1/30)を超える変形をH形断面部材および箱形断面部材に与えて、所定の存在軸力を維持できるか確認した。柱の水平変形許容値(階高の1/30)に達するまで所定の存在軸力を維持した鋼柱を荷重支持能力ありと見なすと、軸力比および鋼材温度を要因とする鋼柱の荷重支持能力は以下のようになった。//[一般鋼を用いた幅厚比b/t=10以下のH形断面部材]//○軸力比0.3以下の柱については、鋼材温度600℃まで荷重支持能力を有する。//○軸力比0.3~0.4の柱については、鋼材温度550℃まで荷重支持能力を有する。//○軸力比0.4~0.5の柱については、鋼材温度500℃まで荷重支持能力を有する。//[一般鋼を用いた幅厚比d/t=30以下の箱形断面部材]//○軸力比0.3以下の柱については、鋼材温度600℃まで荷重支持能力を有する。//○軸力比0.3~0.5の柱については、鋼材温度500℃まで荷重支持能力を有する。//これより、数値解析に基づく耐火設計の力学性状予測において、鋼柱に生じる水平変形量が柱の水平変形許容値(階高の1/30)を超えないことを確認し、軸力比に応じて鋼材温度を制限すれば、局部座屈の影響により外柱が軸力を支えられなくなる事態を回避できるようになった。短柱圧縮実験より得た局部座屈後の応力-ひずみ曲線を用いた数値解析結果は、局部座屈を考慮しない数値解析結果に比較して、曲げ圧縮実験の結果と対応していた。これより、数値解析に基づく耐火設計の力学性状予測に局部座屈を考慮した応カ-ひずみ曲線を用いれば、局部座屈を考慮しない従来の数値解析に比べて、加熱梁の伸びだしにより大きく折れ曲る外柱柱頭の曲げ圧縮変形性状を定性的に追跡できることが示された。//4.耐火設計への適用//本論では、研究の成果を数値解析に基づく耐火設計に適用した一例を示した。設計例には、既往の研究において数値解析が行なわれた高層鉄骨架構48棟の中で、外柱における軸力比が最も大きく、また600℃までの熱応力変形解析において鋼梁のたわみが最も大きかった例を用いた。冒頭に述べたが、耐火設計の出発点は、防火区画による火災の延焼拡大防止にある。構造部材には区画部材に隙間を生じさせない構造安定性が求められるので、構造部材に生じる変形を制限する必要がある。本研究では、ヨーロッパ鋼構造協会の耐火設計で推奨されている変形量の許容値を採用した。鋼柱と鋼梁に生じる変形は、鋼構造骨組の熱応力変形解析によって求められる。鋼柱または鋼梁に生じる変形が許容値に達する時の鋼材温度が、構造部材の耐火性を確保するために必要となる鋼材温度の許容値となる。本設計例では、局部座屈を考慮しない熱応力変形解析においては、鋼材温度590℃で梁のたわみが許容値に達した。局部座屈を考慮した熱応力変形解析においては、鋼材温度575℃で外柱側梁端部に局部座屈が発生して、鋼材温度580℃で収束不可能となった。鋼構造骨組の熱応力変形解析によって求められた鋼材温度の許容値は575℃であった。純曲げ実験の結果より、H形断面部材で幅厚比b/t=10以下の鋼梁については、鋼材温度600℃まで鋼梁に生じるたわみが許容値を超えないことを確認すれば、局部座屈の影響を考慮しなくてもよいことが示された。よって、梁については、鋼構造骨組の熱応力変形解析によって求められる鋼材温度の許容値が採用される。短柱圧縮実験の結果より、H形断面部材および箱形断面部材を用いた鋼柱の荷重支持能力が確認された。この結果を本設計例に適用すると、H形断面部材を用いた軸力比0.32の外柱における鋼材温度の許容値は550℃であり、箱形断面部材を用いた軸力比0.47の内柱における鋼材温度の許容値は500℃である。本実験結果を適用して求められた鋼材温度の許容値は500℃となった。本設計例における鋼構造骨組では、従来の数値解析のみで求められた鋼材温度の許容値は575℃であり、本実験結果を適用して求められた鋼材温度の許容値は500℃であり、鋼材温度500℃までの耐火性を有することが決定された。//5.結論//本研究では、従来不足していた一般鋼部材の変形性状を600℃までの部材実験により蓄積し、鋼構造部材の局部座屈後における残存耐力と荷重支持能力を明らかにした。本研究の成果を活用することにより、数値解析と実験の両面から、鋼構造骨組の耐火性を検討できるようになった。
The basic principle in fire englneerlng design of a building is to enclose any fire that occurs by dividing the interior of the building into compartments. If dividing elements are able to prevent the spread of fire, building occupants will escape safely, fire fighters will remain safe, and much property will be protected from fire. The subject of this study is the stability of structural members that support dividing elements exposed to fire contained in a compartment.
内容記述: 報告番号: 乙15550 ; 学位授与年月日: 2003-02-13 ; 学位の種別: 論文博士 ; 学位の種類: 博士(工学) ; 学位記番号: 第15550号 ; 研究科・専攻: 工学系研究科建築学専攻
URI: http://hdl.handle.net/2261/51267
出現カテゴリ:021 博士論文
工学

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