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タイトル: 北海道で野生化したセイヨウオオマルハナバチの生態影響評価に関する研究
その他のタイトル: Assessing ecological impacts of Bombus terrestris (L.)naturalizedin Hokkaido, northern Japan.
著者: 井上, 真紀
著者(別言語): イノウエ, マキ
発行日: 2008年3月24日
抄録: 第1章 序論本来の生息域を離れ、人間の手によって別の地域に移動させられた外来生物のうち、侵入地域で定着に成功し、分布を拡大して、生態系や人間社会に悪影響を及ぼす種を「侵略的外来種(侵入種)」と呼ぶ。世界経済のグローバリゼーションに伴う物資と人の国際移送の活発化によって、侵入種の問題は深刻さを増しており、世界的な生物多様性の減少をもたらす要因のひとつとして認識されている。ヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチBombus terrestrisは、1980年代に増殖技術が確立され、農作物の花粉媒介用として世界中で利用されるようになった。日本には1991年から温室栽培トマトの授粉昆虫として導入が開始され、現在では毎年数万コロニーが流通している。導入当初から本種の野生化に伴う生態系への影響が指摘されてきたが、特に危惧されたのは、(1)餌資源や営巣場所をめぐる競合による在来種の衰退、(2)種間交雑による在来種の繁殖撹乱、(3)在来植物の種子繁殖の阻害、(4)外来寄生生物の随伴導入による在来種の衰退、などである。これまで、セイヨウオオマルハナバチの侵入による生態影響を示唆する例が報告されている。ニュージーランドでは、1800年代にイギリスから数回にわたって持ち込まれた女王が定着に成功し、現在ではほぼ全島に分布している。そこからの偶発的な侵入によって近年、分布拡大が問題になっているタスマニアでは、多数の在来植物への訪花が確認され、在来ハナバチへの影響が危惧されている。また、イスラエル南部では、本種の分布拡大に伴い、在来ハナバチの衰退が示唆されている。日本では、1996年に北海道でセイヨウオオマルハナバチの野生巣が発見され、2000年代になると道内各地で越冬女王の目撃・捕獲例が急増した。餌資源や営巣場所のニッチ重複から在来種との競合の可能性が指摘されているものの、野外における生態影響の実態については十分に明らかにされているとは言えない。本研究では、野外調査と野生巣の分析によって、在来マルハナバチ群集や保全上重要な生態系への影響および個体群成長ポテンシャルを次のような点から評価した。(1)競合の可能性のある在来種をニッチ重複から予測し、資源をめぐる競合による在来マルハナバチへの生態影響を評価する(第2章)(2)セイヨウオオマルハナバチの新女王生産数および新女王の越冬・営巣成功率を推定し、侵入地域における個体群成長ポテンシャルを推測する(第3、4章)(3)半自然海岸草原を例に保全上重要な生態系における侵入ポテンシャルを予測する(第5章)調査は、セイヨウオオマルハナバチが定着している北海道胆振地方の農業地域、および侵入初期段階にある野付半島の海岸草原において行った。第2章 セイヨウオオマルハナバチによる在来マルハナバチへの生態影響北海道胆振地方において、セイヨウオオマルハナバチと在来種6種の生態的ニッチを形態計測と野外調査によって比較し、餌および営巣場所をめぐる競合の可能性を検討した。採餌に関わる口吻長は、セイヨウオオマルハナバチと在来種5種で類似しており、これらの在来種と利用植物の重複が推測された。セイヨウオオマルハナバチとの利用植物におけるニッチ重複度は、在来種5種のうちエゾオオマルハナバチ(0.48)およびニセハイイロマルハナバチ(0.60)で大きく、餌資源をめぐる競合の可能性が示唆された。一方、営巣場所の選好性は、地中性であるセイヨウオオマルハナバチおよびエゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチで一致しており、営巣場所をめぐる競合が示唆された。餌資源量の推定から、調査地域では外来植物がマルハナバチ類に十分な餌を提供しており、餌資源をめぐる競合による在来種排除の可能性は大きくないと判断された。それに対し、2003~2005年にかけて巣の乗っ取り頻度が増加しており、限られた営巣場所をめぐる競合を示唆する現象が認められたことから、営巣場所が重なるエゾオオマルハナバチとエゾトラマルハナバチへの影響の可能性は高いといえる。調査地域における3年間の個体数変動をみてみると、セイヨウオオマルハナバチの増加に伴って、営巣場所が重なるエゾオオマルハナバチおよびエゾトラマルハナバチが実際に減少していることが明らかになった。一方、営巣場所の異なるニセハイイロマルハナバチにはそのような傾向はみられなかった。以上の結果から、営巣場所をめぐる競合を介したセイヨウオオマルハナバチによる在来マルハナバチ排除の可能性が示唆された。第3章 セイヨウオオマルハナバチの野生巣のコロニー成長と繁殖能力北海道胆振地方において2003~2006年に発見したセイヨウオオマルハナバチ37巣のうち、採集が可能であった25巣を掘り出して室内で分解調査を行った。採集した巣はそれぞれ発達期(働きバチの生産期)、成熟期(繁殖虫の生産期)、衰退期(生産終了)に分類し、コロニー成長と繁殖虫生産について分析・評価した。6~7月に採集された巣は、発達期に分類され、総生産繭数は104.7±99.1(N=7)であった。8~9月に採集された巣は、成熟期に分類され、総生産繭数は377.5±168.6(N=17)、新女王生産数および総生産繭数に占める割合は109.5±76.7、26.9±14.1%(N=12)であった。新女王の生産数割合は、同亜属の在来種3種を大きく上回るだけでなく、ニュージーランドやタスマニアで報告されている値に比べ格段に高いことが示された。商品化の過程において、繁殖能力の高い系統が人為的に選抜された結果であるとも考えられる。第4章 セイヨウマルハナバチの個体群成長ポテンシャルの推定前章では、営巣に成功した巣の新女王生産ポテンシャルが把握できた。それに加えて単独期における女王の生活史ステージを越冬期および営巣期の2つに分け、それぞれの成功率を推定することにより、個体群成長ポテンシャルを推測した。越冬期については、2003~2006年に採集した個体の頭部幅を計測し、体サイズ依存の越冬成功率をモデル化することによって推定した。すなわち、サイズ依存の自然選択による正規分布の変化から生残率を求めた。また、営巣期においては、春女王の捕獲個体に占める営巣開始個体の割合を求めることで営巣成功率を間接的に推定した。その結果、越冬期の体サイズ依存の成功率は44.0%、営巣期の成功率は11.8%と推測された。実際には、ここで考慮された以外の死亡要因が考えられるが、一般に侵入初期の外来種は生態的解放によって生物的要因による死亡率は低いことが期待される。そこで、これらの成功率を積算して潜在的営巣成功率とした。その結果、1つの巣で生産された新女王110頭(第3章)のうち、営巣成功によって個体群成長に寄与しうるのは、5.7個体との推定値が得られた。なお、調査地域では巣の乗っ取り頻度が増加しており(第2章)、個体群は飽和状態にあると思われる。しかし、より広域的にみた場合、セイヨウオオマルハナバチの定着地域が放出源として機能しうることから、分布拡大ポテンシャルは高いと考えられる。第5章 野付半島におけるセイヨウオオマルハナバチの保全生態学的研究これまで、市街地や農耕地など人為的干渉の大きい環境でセイヨウオオマルハナバチの定着と分布拡大が報告されてきた。しかし、2006~2007年にかけて根室半島と野付半島で新たにセイヨウオオマルハナバチの侵入が確認された。これらの地域は、マルハナバチの種数が多いだけでなく、国内で最も希少な在来種ノサップマルハナバチの限られた生息地である。また、半自然海岸草原という日本ではきわめて希少な植生が残されており、豊かな在来植物との間に送粉共生系が成立している場所である。このような保全上重要な生態系へのセイヨウオオマルハナバチの侵入は、生物多様性の保全上最も危惧しなければならないことである。そこで、侵入実態を把握し対策を立てるために、2007年に野付半島の海岸草原において訪花頻度調査および営巣調査を実施した。セイヨウオオマルハナバチは在来種に比べ個体数が少なく、この地域への侵入初期と考えられる。しかし、在来植物の利用率が高いこと、営巣にも成功していることから、このような自然性の高い生態系においても十分に定着が可能であることが明らかになった。今後侵入が進行すれば、第2章で示したように資源をめぐる競合を介した在来種の減少が予測される。第6章 結論本研究では、ニッチ重複の点からセイヨウオオマルハナバチの侵入によって生態影響を受ける可能性が高い在来種を明らかにし、実際に営巣場所が重なるエゾオオマルハナバチおよびエゾトラマルハナバチが影響を受けていることを明らかにした。また、個体群成長ポテンシャルの推定によって、本種の高い増殖力が侵入地域における優占状態に寄与しているのみならず、未侵入地域への急速な分布拡大をもたらしうる潜在的可能性があることが示された。これらの結果をふまえると、保全上重要な地域におけるマルハナバチ群集や送粉生態系への影響を防止するために、侵入地域のみならず、すでに本種が定着し、その放出源となっている周辺地域においても、監視・駆除等の対策をいっそう強化することが必要である。
内容記述: 報告番号: 甲23617 ; 学位授与年月日: 2008-03-24 ; 学位の種別: 課程博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 博農第3321号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科生圏システム学専攻
URI: http://hdl.handle.net/2261/52974
出現カテゴリ:021 博士論文
1162020 博士論文(生圏システム学専攻)

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