2024-03-28T14:07:04Z
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2022-12-19T03:45:59Z
27:78:288
9:233:280
Melaleuca cajuputiのアルミニウム耐性機構
田原, 恒
9733
613.51
University of Tokyo (東京大学)
博士(農学)
酸性硫酸塩土壌は、強酸性土壌の中でも特にpHが低く、粘土鉱物から溶出したアルミニウム(Al)が植物に有害なAl3+として土壌溶液中に高濃度に含まれている。酸性硫酸塩土壌で生育可能な植物の探索は十分ではないが、フトモモ科樹木Melaleuca cajuputi Powellなど少数の植物が生育できることがわかっている。M. cajuputiなどの酸性硫酸塩土壌で生育可能な植物の特性を理解することにより、酸性硫酸塩土壌での造林技術の確立に寄与するとともに、広く強酸性土壌での生物生産向上に資することができよう。本研究では、酸性硫酸塩土壌で生育可能な樹種を選抜するとともに、強酸性土壌で問題になるAlに対する樹木の反応と耐性樹種であるM. cajuputi耐性機構を明らかにすることを目的とした。Alによって植物に現れる最も顕著な障害は根の伸長阻害であり、根端がAlの標的部位である。植物のAl耐性機構は、Alが根端に集積しないようにする「Al排除機構」と根端にAlが侵入しても耐えられる「根端内Al耐性機構」の二つに大きく分けて考えることができる。植物のAl耐性機構の研究は、Al排除機構を中心になされてきており、Alと結合する有機酸を根端から分泌し、Alが根に吸収されるのを防ぐ機構が明らかになっている。一方、根端内Al耐性機構については、未解明な部分が多い。本研究では、M. cajuputiのAl耐性機構をAl排除機構、根端内Al耐性機構の両側面から解析した。 タイ国ナラティワート県に分布する酸性硫酸塩土壌に試験地を設け、植栽後2年間の生残と樹高成長を調べ、生育可能な樹種の選抜を行った。試験地の地下水および土壌溶液のpHが2.8-3.7と非常に低く、土壌溶液のAl濃度が2-3mMと非常に高かった。フトモモ科のEucalyptus alba Reinw. ex Bl.、Melaleuca arcana S.T.Blake、M. cajuputi、M. leucadendra (L.) L.、Syzygium lineatum (DC.) Merr. & L.M.Perry、S. oblatum (Roxb.) A.M.Cowan & J.M.Cowan、S. pachyphyllum(Kurz)Merr. & L.M.Perry、S. scortechinii(King) Chanter & J.Parn.、S. zeylanicum(L.) DC.、マメ科のAcacia mangium Willd.、フジウツギ科のFagraea fragrans Roxb.の11種は、活着率が高く樹高成長量も大きく、酸性硫酸塩土壌で生育可能だった。E. camaldulensis Dehn.は活着率は高かったが、次第に枯死個体が増加し成長量も低下した。M. bracteata F.Muell.は植栽2年後までにすべて枯死し、酸性硫酸塩土壌での生育には適していないと考えられた。 Melaleuca属とEucalyptus属の9種のAl耐性を評価するために、植物育成装置内で水耕実験を行った。1mM AlCl3の培養液(pH4.0)で24時間処理し、根の伸長阻害によってAl耐性を評価した。その結果、M. cajuputi、M. leucadendra、M. quinquenervia(Cav.) S.T.Blake、E. deglupta Bl.、E. grandis W.Hill ex Maidenの5種は根の伸長が阻害されず1mMのAlに耐性があり、M. bracteata、M. glomerata F.Muell.、M. viridiflora Sol. ex Gaertner、E. camaldulensisの4種は根の伸長が阻害され1mMのAlに耐性がないことがわかった。Alによる9種の根端へのカロース(1,3-b-D-グルカン)の沈着量と、根の伸長の間に種を越えて負の相関が認められた。このことは、カロースが種間のAl耐性比較の指標として利用できる可能性を示している。次に、M. cajuputi、E. camaldulensis、M. bracteataの3種についてAl濃度を6段階設け(0.1、0.2、0.5、1、2.5、5mM)、5日間処理しAl耐性を調べた。E. camaldulensisは2.5mM以上のAlで、M. bracteataは0.2mM以上のAlで根の伸長が阻害された。M. cajuputiは5mM Alでのみ根の伸長が阻害され、非常に高いAl耐性を持っていることがわかった。 Melaleuca cajuputiの極めて高いAl耐性がAl排除機構によるものであるかどうかを明らかにすべく、根からのAl結合性物質の分泌について調べ、Al耐性がより低いE. camaldulensis、M. bracteataと比較した。1mM Alの0.35mM CaCl2溶液(pH4.0)に根を24時間浸け、根からの分泌物を採取し分析した。3種ともクエン酸とリンゴ酸を分泌しており、E. camaldulensisではシュウ酸も分泌していた。しかし、M. cajuputiのクエン酸とリンゴ酸の分泌量は、Al感受性種M. bracteataよりも少なく、また、有機酸を分泌してAl耐性を得ている既知の種と比べて分泌量が小さいことから、有機酸の分泌はM. cajuputiの主要なAl耐性機構ではないと考えられた。Al結合能力を持つリン酸の分泌は、M. bracteataがM. cajuputiとE. camaldulensisよりも多く、M. cajuputiとE. camaldulensisの主要なAl耐性機構とは考えられなかった。Al結合能力を持つフェノール物質の根からの分泌量は、E. camaldulensis>M. cajuputi>M. bracteataの順で多かった。従って、E. camaldulensisでは、根からのフェノール物質の分泌がAl耐性に寄与している可能性があり、M. cajuputiでは主要なAl耐性機構ではないと考えられた。また、E. camaldulensisでは、Alによって分子量500程度のAl結合性物質の分泌量が増えることが、ピロカテコールバイオレット比色法によるAl結合性物質の定量ならびにゲル濾過法による分泌物の分画により明らかになった。Alに反応したAl結合性物質の分泌がE. camaldulensisのAl耐性に寄与している可能性がある。しかし、M. cajuputiでは、M. bracteataよりもAl結合性物質の分泌量が小さく、Al耐性にAl結合性物質の分泌は関与していないと考えられた。 感受性種M. bracteataのAl障害発生までの時間を調べたところ、M. bracteataでは1mM Al処理3時間で根の伸長阻害と根端へのカロース沈着が観察された。これらの現象はM. cajuputiでは観察されず、M. cajuputiとM. bracteataの耐性の違いは3時間で現れることがわかった。もし、M. cajuputiのAl耐性がAl排除機構によるものであれば、Al処理開始3時間でM. cajuputiとM. bracteataの根端のAl濃度に違いが現れるはずである。そこで、1mM Alの0.35mM CaCl2溶液に2種の根を浸け、根端5mmに取り込まれるAl量を比較した。処理開始1時間後の根端のAl濃度は、M. cajuputiのほうがM. bracteataよりも高く、3時間と6時間後のAl濃度は、M. cajuputiとM. bracteataで同程度だった。この結果から、M. cajuputiのAl耐性はAl排除機構によるものではなく、根端内Al耐性機構によるものであることが明らかになった。Al処理をした2種の根端のAlを細胞膜を破壊してから1mMクエン酸ナトリウムと5mM CaCl2を含む溶液で抽出した。M. cajuputiでは抽出されずに残るAlがM. bracteataよりも少なかった。このことは、根端に強く結合したAlがM. cajuputiでM. bracteataよりも少ないこと、つまり、2種で根端内でのAlの存在形態が異なっていることを示している。M. cajuputiではAlが根端内で有機酸やフェノール物質などと強く結合して無害化されていることが考えられる。M. cajuputiの根全体のクエン酸濃度は、24時間の1mM Al処理後、M. bracteataの約4倍であり、このことがM. cajuputiのAl耐性に寄与している可能性がある。しかし、根端の可溶性フェノール物質の濃度は樹種による違いがなかった。 酸性硫酸塩土壌の土壌溶液に、M. bracteataなどのAl耐性の低い樹種が障害を受けるのに十分なAlが含まれていた。酸性硫酸塩土壌でM. bracteataが生育できなかった原因の一つは過剰なAlによるものであり、酸性硫酸塩土壌に植栽する樹木は、高いAl耐性を持っていることが必要条件であると言える。植物のAl障害の研究に主に用いられている作物やモデル植物が1-50μMのAlで根の伸長が阻害されることと比べると、1mMのAlに耐性を示した5種は高いAl耐性を有しており、中でも2.5mMのAlに耐性を示したM. cajuputiはAl耐性が極めて高いと言える。Melaleuca属に0.2mM Alで根が著しく根の伸長が阻害される種M. bracteataを見いだし、Al耐性の大きく異なるこの近縁2種を比較することによってM. cajuputiのAl耐性機構を解析した。その結果、M. cajuputiのAl耐性は、有機酸分泌などによる既知のAl排除機構によるものでなく、根端内Al耐性機構によるものであることが明らかになった。
thesis
2005-03-24
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甲20171
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jpn