WEKO3
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[{"subitem_description": "【背景】 消化管とは口から始まり肛門に終わる管のことであり、食物の運搬、消化、吸収という生命の営みを支える最も根源的な機能を果たす器官である。消化管組織は粘膜層と平滑筋層の2層に分けることができ、消化・吸収は粘膜層が、食物運搬は平滑筋層が各々その役割を担っている。消化管の運動はその役割上、他の平滑筋組織に比べ遥かに複雑である。これを制御するため、消化管平滑筋層にはその他の抹消神経をすべて合わせたよりも多くの神経細胞が存在し、『第二の脳』と呼ばれるほど精密な制御を受けている。さらにカハールの介在細胞(ICC)は、平滑筋層内でネットワークを形成し、この神経細胞の働きを補助する役割を担う。これまで消化管平滑筋層の研究分野では、こういった運動制御のメカニズムを解明することに主眼が置かれていた。 腹痛や下痢などの症状を伴う軽度の胃炎・腸炎は誰もが経験する身近なものである。一方で深刻な腸炎疾患として、原因不明の慢性炎症であるクローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)がある。欧米では有病率が100-200人に1人という一般的な疾患であるが、日本においてはまれであったため近年まで一般にはあまりなじみのない疾患であった。しかし生活習慣の欧米化に伴い、現在本邦のクローン病患者数は20年前の約3千人から約2万5千人に、潰瘍性大腸炎患者数は約1万人から約8万人へと急激に増加し大きな問題となっている。畜産の世界では、消化器症状を呈するウィルス性および細菌性疾患に加え、多頭飼育に伴うストレスや感染症により発生する消化器障害が問題となっている。ウシのヨーネ病は症状が慢性的に推移することから特に問題となるが、近年その発生頭数が増加しており、3-6年といった長い潜伏期ののちに慢性の下痢による削痩、乳量の低下といった症状を起こすことから、日本のみならず世界的にも畜産業に与える打撃は大きく、慢性的な炎症のメカニズムの解明が望まれる。 慢性腸炎では、消化管における免疫異常が重要な役割を果たしており、世界的に粘膜免疫に着目した研究が精力的に行われている。一方で、これら腸炎疾患では消化管運動機能障害が観察され、腸内容の滞留などによる腸内フローラの乱れをきたすことで、病態の悪化を引き起こす原因となっている(図1)。しかし腸炎疾患において平滑筋層の炎症による消化管運動機能障害に関する研究は驚くほど遅れており、統一された見解は得られていない。近年消化管平滑筋層にも常在型マクロファージなど固有の免疫系の存在が明らかとなっており、かつ腸炎時には粘膜層のみならず平滑筋層においてもサイトカイン発現上昇が確認されている。すなわち、サイトカインの持続的な消化管筋層への暴露が消化管運動機能障害の原因となる可能性が考えられる。 ミオシン軽鎖(MLC)のSer19残基の可逆的なリン酸化の調節は、平滑筋細胞の収縮を制御する最も基本的な機構である。消化管平滑筋がacetylcholineによって刺激されるとCa(2+)流入が引き起こされ、細胞内Ca(2+)濃度が上昇する。これにより形成されるCa(2+)-カルモジュリン(CaM)複合体によってミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)が活性化され、MLCのリン酸化レベルの上昇を起こす。その結果、ミオシンのATPase活性が上昇して、平滑筋の収縮が起こると考えられている。一方、リン酸化されたMLCは、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)によって脱リン酸化されるが、近年このMLCP活性を制御する因子としてCPI-17とMYPT1の重要性が報告されている(図2)。【研究目的】 消化管平滑筋層が炎症性サイトカインに長期間暴露されることで平滑筋細胞自身に機能異常をきたすとの仮説のもと、『腸炎時の消化管運動機能障害におけるIL-1βの役割』を解明することを目的とした。【結果】 本研究ではまず、消化管平滑筋収縮機構におけるCPI-17およびMYPT1の制御機構を解明するため、回腸平滑筋組織を用いて以下の知見を得た。1)ラット回腸平滑筋組織をcarbacholで刺激すると、PKC、ROCKs、PKN依存的にCPI-17のリン酸化が、ROCKs依存的にMYPT1のリン酸化が引き起こされた。2)β-escin脱膜化標本に各種抗体を処置することでCPI-17またはMYPT1の活性を抑制すると、Ca(2+)感受性の増加が完全に抑制された。 以上の結果から、回腸平滑筋収縮においてCPI-17およびMYPT1が重要な役割を果たすことが明らかとなった。 TNBS誘発回腸炎モデルの平滑筋層においてIL-1β、TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインの発現が見られた。そこで、IL-1βが長期的に暴露することで消化管平滑筋細胞自身に機能異常をきたす可能性を検討するため、消化管粘膜を剥離した平滑筋組織培養法を用いて以下の知見を得た。1)ラット回腸平滑筋組織培養法により平滑筋組織をIL-1βで3日間処置したところ、収縮力の抑制およびMLCのリン酸化レベルの低下が認められた。2)α-toxin脱膜化標本を用いたCa(2+)感受性の検討から、IL-1βはRhoA/ROCKsの経路を抑制する可能性が示唆された。3)IL-1βはRhoA、ROCK1/2、MYPT1などの平滑筋収縮に関与するタンパク質の発現量に影響を与えなかったが、CPI-17のタンパク質発現量を強く抑制した。またCPI-17およびMYPT1のリン酸化レベルを低下させた。 以上の結果から、IL-1βの消化管への長期暴露は、平滑筋収縮機構の中で特にMLCPを阻害する内在性タンパク質CPI-17の発現量を顕著に減少させるとともに、MLCPの調節因子であるMYPT1とCPI-17のリン酸化を減弱させることでMLCP活性を増強させ、平滑筋収縮能を低下させることが示唆された。 そこで次に、実際の腸炎においてもCPI-17の発現量低下が運動機能障害に関与するかを明らかにするため、in vivoの腸炎モデルにおける運動機能障害とCPI-17の関係を検討した。またサイトカインネットワークによるCPI-17発現抑制機構を解明するために、各種サイトカインノックアウト(KO)マウスと組織培養法を組み合わせ、以下の知見を得た。1)急性腸炎モデルであるTNBS誘発腸炎、慢性炎症モデルであるIL-10 KOマウスにおいて収縮力とCPI-17発現量の低下が認められた。2)IL-1α/β KOマウスの回腸平滑筋組織にTNF-αを処置すると、収縮力およびCPI-17発現量が低下したのに対し、TNF-α KOマウスの回腸平滑筋組織にIL-1βを処置しても影響がなかった。3)TNBS誘発腸炎により、TNF-α KOマウスではCPI-17発現および収縮力が変化しなかったのに対して、IL-1α/β KO マウスでは顕著なCPI-17発現量および収縮力の低下が観察された。 以上の結果から、in vivoの腸炎においてもCPI-17 が運動機能障害に関与すること、さらにTNF-αがCPI-17発現抑制に必須であり、IL-1βはTNF-αを介してこの経路に関与することが示唆された。 一方でこの中で、意外なことにIL-1α/β KOマウスでは腸炎が増悪することが明らかとなった。そこで私は筋層免疫においてIL-1βに保護的な作用という側面があるのではないかとの仮説を立て、平滑筋細胞増殖に対するIL-1βの影響を、平滑筋細胞単離培養系および組織培養法を用いて検討し、以下の知見を得た。1)ラット平滑筋単離培養細胞にIL-1βを処置すると、細胞増殖の促進が認められた。2)回腸平滑筋組織を10% FBSで3日間培養すると、無血清のコントロール群に比べ単位面積あたりの平滑筋細胞数の増加、増殖マーカーであるPCNAおよびBrdU陽性の平滑筋細胞数の増加が認められた。3)IL-1β、NO、PGE2を10% FBSとともにそれぞれ単独で処置すると、FBSによる平滑筋細胞の増殖はいずれの処置によっても抑制された。4)IL-1βは平滑筋組織内常在型マクロファージのiNOSおよびCOX-2の発現、NOおよびPGE2産生を誘導した。 以上の結果から、消化管においてIL-1βは、培養細胞レベルでは平滑筋細胞増殖を誘導するが、組織レベルでは、IL-1βの平滑筋細胞増殖を誘導する直接的な作用よりも、常在型マクロファージにおける一酸化窒素(NO)・プロスタグランジン類の産生を介した、平滑筋細胞増殖を抑制する作用の方が強く現われることが示唆された。【総括】 in vitroの細胞培養系において平滑筋細胞は容易に形質変換することから収縮力の検討が困難であるとともに、細胞間の相互作用についても検討しづらい。消化管平滑筋組織培養法はこの欠点を克服することができるだけでなく、特に炎症に関与するサイトカインの反応を検討する際には、二次的に遊走してくる血球系細胞の関与を除外することを可能とし、in vivoとin vitro両者の優れた特性を持ち合わせた有用な実験手技である。本研究はこれまであまり研究のされてこなかった消化管筋層部の免疫応答に注目し、長期的な炎症性サイトカインの暴露が平滑筋細胞に直接作用してその収縮機構を抑制することが、腸炎による消化管運動機能障害の機構の1つであることを解明した。すなわちIL-1βおよびTNF-αはCPI-17という内在性セリン・スレオニンフォスファターゼ阻害因子の発現を低下させることで炎症時の運動機能障害に関与することを初めて明らかにし、この結果はin vivoの腸炎モデルにおいても再現することができた。さらに、各種KOマウスを組織培養法に適用することで、この運動機能障害にはTNF-αが中心的な役割を果たしており、IL-1βの作用もTNF-αを介したものであることを明らかにした。 また本研究では組織培養法の有効性を利用し、in vitroの培養細胞系では細胞増殖因子として働くため平滑筋層の肥厚に関与すると考えられていたIL-1βが、組織レベルでは常在型マクロファージからのNO/PGE2産生を誘導することで、むしろ肥厚を抑制する働きがあることを明らかにした(図3)。 IL-1βは様々な組織において炎症を誘起・増悪させる中心的な因子とされている。しかしながら本研究の結果から、少なくとも消化管の平滑筋層では単純に病態悪化を促進するわけではなく、それを抑制する作用も示す多面的な因子であり、総合的には病態悪化を抑える働きをすると考えられた。", 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腸炎時の消化管運動機能障害におけるIL-1βの役割
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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Item type | 学位論文 / Thesis or Dissertation(1) | |||||
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公開日 | 2013-01-16 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 腸炎時の消化管運動機能障害におけるIL-1βの役割 | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源 | http://purl.org/coar/resource_type/c_46ec | |||||
タイプ | thesis | |||||
ID登録 | ||||||
ID登録 | 10.15083/00004296 | |||||
ID登録タイプ | JaLC | |||||
著者 |
大濱, 剛
× 大濱, 剛 |
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著者別名 | ||||||
識別子 | 9812 | |||||
識別子Scheme | WEKO | |||||
姓名 | オオハマ, タカシ | |||||
著者所属 | ||||||
著者所属 | 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 | |||||
Abstract | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | 【背景】 消化管とは口から始まり肛門に終わる管のことであり、食物の運搬、消化、吸収という生命の営みを支える最も根源的な機能を果たす器官である。消化管組織は粘膜層と平滑筋層の2層に分けることができ、消化・吸収は粘膜層が、食物運搬は平滑筋層が各々その役割を担っている。消化管の運動はその役割上、他の平滑筋組織に比べ遥かに複雑である。これを制御するため、消化管平滑筋層にはその他の抹消神経をすべて合わせたよりも多くの神経細胞が存在し、『第二の脳』と呼ばれるほど精密な制御を受けている。さらにカハールの介在細胞(ICC)は、平滑筋層内でネットワークを形成し、この神経細胞の働きを補助する役割を担う。これまで消化管平滑筋層の研究分野では、こういった運動制御のメカニズムを解明することに主眼が置かれていた。 腹痛や下痢などの症状を伴う軽度の胃炎・腸炎は誰もが経験する身近なものである。一方で深刻な腸炎疾患として、原因不明の慢性炎症であるクローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)がある。欧米では有病率が100-200人に1人という一般的な疾患であるが、日本においてはまれであったため近年まで一般にはあまりなじみのない疾患であった。しかし生活習慣の欧米化に伴い、現在本邦のクローン病患者数は20年前の約3千人から約2万5千人に、潰瘍性大腸炎患者数は約1万人から約8万人へと急激に増加し大きな問題となっている。畜産の世界では、消化器症状を呈するウィルス性および細菌性疾患に加え、多頭飼育に伴うストレスや感染症により発生する消化器障害が問題となっている。ウシのヨーネ病は症状が慢性的に推移することから特に問題となるが、近年その発生頭数が増加しており、3-6年といった長い潜伏期ののちに慢性の下痢による削痩、乳量の低下といった症状を起こすことから、日本のみならず世界的にも畜産業に与える打撃は大きく、慢性的な炎症のメカニズムの解明が望まれる。 慢性腸炎では、消化管における免疫異常が重要な役割を果たしており、世界的に粘膜免疫に着目した研究が精力的に行われている。一方で、これら腸炎疾患では消化管運動機能障害が観察され、腸内容の滞留などによる腸内フローラの乱れをきたすことで、病態の悪化を引き起こす原因となっている(図1)。しかし腸炎疾患において平滑筋層の炎症による消化管運動機能障害に関する研究は驚くほど遅れており、統一された見解は得られていない。近年消化管平滑筋層にも常在型マクロファージなど固有の免疫系の存在が明らかとなっており、かつ腸炎時には粘膜層のみならず平滑筋層においてもサイトカイン発現上昇が確認されている。すなわち、サイトカインの持続的な消化管筋層への暴露が消化管運動機能障害の原因となる可能性が考えられる。 ミオシン軽鎖(MLC)のSer19残基の可逆的なリン酸化の調節は、平滑筋細胞の収縮を制御する最も基本的な機構である。消化管平滑筋がacetylcholineによって刺激されるとCa(2+)流入が引き起こされ、細胞内Ca(2+)濃度が上昇する。これにより形成されるCa(2+)-カルモジュリン(CaM)複合体によってミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)が活性化され、MLCのリン酸化レベルの上昇を起こす。その結果、ミオシンのATPase活性が上昇して、平滑筋の収縮が起こると考えられている。一方、リン酸化されたMLCは、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)によって脱リン酸化されるが、近年このMLCP活性を制御する因子としてCPI-17とMYPT1の重要性が報告されている(図2)。【研究目的】 消化管平滑筋層が炎症性サイトカインに長期間暴露されることで平滑筋細胞自身に機能異常をきたすとの仮説のもと、『腸炎時の消化管運動機能障害におけるIL-1βの役割』を解明することを目的とした。【結果】 本研究ではまず、消化管平滑筋収縮機構におけるCPI-17およびMYPT1の制御機構を解明するため、回腸平滑筋組織を用いて以下の知見を得た。1)ラット回腸平滑筋組織をcarbacholで刺激すると、PKC、ROCKs、PKN依存的にCPI-17のリン酸化が、ROCKs依存的にMYPT1のリン酸化が引き起こされた。2)β-escin脱膜化標本に各種抗体を処置することでCPI-17またはMYPT1の活性を抑制すると、Ca(2+)感受性の増加が完全に抑制された。 以上の結果から、回腸平滑筋収縮においてCPI-17およびMYPT1が重要な役割を果たすことが明らかとなった。 TNBS誘発回腸炎モデルの平滑筋層においてIL-1β、TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインの発現が見られた。そこで、IL-1βが長期的に暴露することで消化管平滑筋細胞自身に機能異常をきたす可能性を検討するため、消化管粘膜を剥離した平滑筋組織培養法を用いて以下の知見を得た。1)ラット回腸平滑筋組織培養法により平滑筋組織をIL-1βで3日間処置したところ、収縮力の抑制およびMLCのリン酸化レベルの低下が認められた。2)α-toxin脱膜化標本を用いたCa(2+)感受性の検討から、IL-1βはRhoA/ROCKsの経路を抑制する可能性が示唆された。3)IL-1βはRhoA、ROCK1/2、MYPT1などの平滑筋収縮に関与するタンパク質の発現量に影響を与えなかったが、CPI-17のタンパク質発現量を強く抑制した。またCPI-17およびMYPT1のリン酸化レベルを低下させた。 以上の結果から、IL-1βの消化管への長期暴露は、平滑筋収縮機構の中で特にMLCPを阻害する内在性タンパク質CPI-17の発現量を顕著に減少させるとともに、MLCPの調節因子であるMYPT1とCPI-17のリン酸化を減弱させることでMLCP活性を増強させ、平滑筋収縮能を低下させることが示唆された。 そこで次に、実際の腸炎においてもCPI-17の発現量低下が運動機能障害に関与するかを明らかにするため、in vivoの腸炎モデルにおける運動機能障害とCPI-17の関係を検討した。またサイトカインネットワークによるCPI-17発現抑制機構を解明するために、各種サイトカインノックアウト(KO)マウスと組織培養法を組み合わせ、以下の知見を得た。1)急性腸炎モデルであるTNBS誘発腸炎、慢性炎症モデルであるIL-10 KOマウスにおいて収縮力とCPI-17発現量の低下が認められた。2)IL-1α/β KOマウスの回腸平滑筋組織にTNF-αを処置すると、収縮力およびCPI-17発現量が低下したのに対し、TNF-α KOマウスの回腸平滑筋組織にIL-1βを処置しても影響がなかった。3)TNBS誘発腸炎により、TNF-α KOマウスではCPI-17発現および収縮力が変化しなかったのに対して、IL-1α/β KO マウスでは顕著なCPI-17発現量および収縮力の低下が観察された。 以上の結果から、in vivoの腸炎においてもCPI-17 が運動機能障害に関与すること、さらにTNF-αがCPI-17発現抑制に必須であり、IL-1βはTNF-αを介してこの経路に関与することが示唆された。 一方でこの中で、意外なことにIL-1α/β KOマウスでは腸炎が増悪することが明らかとなった。そこで私は筋層免疫においてIL-1βに保護的な作用という側面があるのではないかとの仮説を立て、平滑筋細胞増殖に対するIL-1βの影響を、平滑筋細胞単離培養系および組織培養法を用いて検討し、以下の知見を得た。1)ラット平滑筋単離培養細胞にIL-1βを処置すると、細胞増殖の促進が認められた。2)回腸平滑筋組織を10% FBSで3日間培養すると、無血清のコントロール群に比べ単位面積あたりの平滑筋細胞数の増加、増殖マーカーであるPCNAおよびBrdU陽性の平滑筋細胞数の増加が認められた。3)IL-1β、NO、PGE2を10% FBSとともにそれぞれ単独で処置すると、FBSによる平滑筋細胞の増殖はいずれの処置によっても抑制された。4)IL-1βは平滑筋組織内常在型マクロファージのiNOSおよびCOX-2の発現、NOおよびPGE2産生を誘導した。 以上の結果から、消化管においてIL-1βは、培養細胞レベルでは平滑筋細胞増殖を誘導するが、組織レベルでは、IL-1βの平滑筋細胞増殖を誘導する直接的な作用よりも、常在型マクロファージにおける一酸化窒素(NO)・プロスタグランジン類の産生を介した、平滑筋細胞増殖を抑制する作用の方が強く現われることが示唆された。【総括】 in vitroの細胞培養系において平滑筋細胞は容易に形質変換することから収縮力の検討が困難であるとともに、細胞間の相互作用についても検討しづらい。消化管平滑筋組織培養法はこの欠点を克服することができるだけでなく、特に炎症に関与するサイトカインの反応を検討する際には、二次的に遊走してくる血球系細胞の関与を除外することを可能とし、in vivoとin vitro両者の優れた特性を持ち合わせた有用な実験手技である。本研究はこれまであまり研究のされてこなかった消化管筋層部の免疫応答に注目し、長期的な炎症性サイトカインの暴露が平滑筋細胞に直接作用してその収縮機構を抑制することが、腸炎による消化管運動機能障害の機構の1つであることを解明した。すなわちIL-1βおよびTNF-αはCPI-17という内在性セリン・スレオニンフォスファターゼ阻害因子の発現を低下させることで炎症時の運動機能障害に関与することを初めて明らかにし、この結果はin vivoの腸炎モデルにおいても再現することができた。さらに、各種KOマウスを組織培養法に適用することで、この運動機能障害にはTNF-αが中心的な役割を果たしており、IL-1βの作用もTNF-αを介したものであることを明らかにした。 また本研究では組織培養法の有効性を利用し、in vitroの培養細胞系では細胞増殖因子として働くため平滑筋層の肥厚に関与すると考えられていたIL-1βが、組織レベルでは常在型マクロファージからのNO/PGE2産生を誘導することで、むしろ肥厚を抑制する働きがあることを明らかにした(図3)。 IL-1βは様々な組織において炎症を誘起・増悪させる中心的な因子とされている。しかしながら本研究の結果から、少なくとも消化管の平滑筋層では単純に病態悪化を促進するわけではなく、それを抑制する作用も示す多面的な因子であり、総合的には病態悪化を抑える働きをすると考えられた。 | |||||
書誌情報 | 発行日 2007-03-22 | |||||
日本十進分類法 | ||||||
主題 | 493.4 | |||||
主題Scheme | NDC | |||||
学位名 | ||||||
学位名 | 博士(獣医学) | |||||
学位 | ||||||
値 | doctoral | |||||
学位分野 | ||||||
Veterinary Medical Science (獣医学) | ||||||
学位授与機関 | ||||||
学位授与機関名 | University of Tokyo (東京大学) | |||||
研究科・専攻 | ||||||
Department of Veterinary Medical Sciences, Graduate School of Agricultural and Life Sciences (農学生命科学研究科獣医学専攻) | ||||||
学位授与年月日 | ||||||
学位授与年月日 | 2007-03-22 | |||||
学位授与番号 | ||||||
学位授与番号 | 甲22473 | |||||
学位記番号 | ||||||
博農第3197号 |